【解説】オラ夏は良ゲー,しかし評価が3つの理由を解説!※ネタバレなし

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こがめ
こがめ

どうもこがめです.

今回は2021/7/15に発売された『クレヨンしんちゃん「オラと博士の夏休み」〜おわらない七日間の旅〜』のレビューをしていきたいと思います.

私自身,本作は発売前から非常に楽しみにしていて,発売日から没頭してプレイし,非常に充実した時間を過ごせました.
ただ本作のレビューはかなり慎重にやる必要があると感じましたので,今回の記事で詳細に,且つ丁寧に解説していきます.
実際のところ買いなのか,ネタバレなしでお送りしますので,買うかどうか迷っている方は是非最後まで見て下さい

 

レビューで意識しておきたい点

では早速レビューに入っていきたいところなのですが,まず本作のレビューを語るにあたっては重要な前提条件があります.
それは,少なくとも3つの軸で評価する必要があるという点です.

というのも,発売前の開発陣へのインタビューにて,本作をどんな人にプレイしてもらう前提で製作したかという質問に対し,ゲームの核となる,企画/脚本/レイアウト等を手掛けた綾部さんはこのように答えています.

「本作は「ぼくなつ」のファン,『クレヨンしんちゃん』のファン,そしてゲームのファンに向けています.
小学校低学年の方でも遊べるように,(中略)なっているのも特徴です.
ただ,『クレヨンしんちゃん』も歴史が長いですし,「ぼくなつ」のファンとなると50代かもっと上になってしまう.
なので,小学校低学年から50代以上も遊べる“超一般性”を持ったタイトルになるように組み立てました.」

このインタビューからわかるように,非常に幅広い人達がプレイすることを想定して開発された作品であることがわかります.
クレヨンしんちゃんのアニメや映画が好きな親子から,コアな”ぼくなつ”ファンまで,多種多様な人たちがターゲットというわけです.
従って,この広いターゲットを捉えるにあたっては,より一般的なゲームに近づいていくことは必然です.
この前提を考慮せずに憶測や妄想で期待を過度に広げてしまうと,「なんか違うな」となる可能性が高くなります.

ということで,どんな人なら本作を存分に楽しむことができるのか,購入する前にどんなことを理解しておくべきなのか,順を追って説明していきます.

“ぼくなつ”ファンから見たオラ夏

まずは本作を”ぼくなつ”ファンから見てどうだったかについて.

ご存知ない方もいるかもしれませんので,”ぼくなつ”,そして”オラ夏”との関係や歴史について簡単に整理しましょう.
“ぼくなつ”シリーズとは,2000年にPSにて発売された『ぼくのなつやすみ』を1作品目とし,以降,ナンバリングタイトルとして,ぼくのなつやすみ2 海の冒険篇 (PS2),ぼくのなつやすみ3 -北国篇- 小さなボクの大草原 (PS3),ぼくのなつやすみ4 瀬戸内少年探偵団「ボクと秘密の地図」 (PSP),と計4作品(その他リメイク作品あり),売上はシリーズ累計約180万本です.

そして,その”ぼくなつ”シリーズ全作品はゲームクリエイターの綾部和さんが前面に指揮を執っているわけですが,その綾部さんが”オラ夏”についてもゲームの核となる部分を手掛けているわけです.

従って,”ぼくなつ”ファンの間では待望の新作の登場に期待が膨れ上がっていたケースも少なくなかったと思います.
2009年に発売されたぼくなつ4以来約12年以上も新作は出ていないこともあり,この期待は必然だったかもしれません.

とまぁそんな背景もあったので,世間一般からして見れば,「なんでクレヨンしんちゃんのゲームがこんなに話題になってるの?」と感じた方も多かったかもしれませんね.

ただ,このある意味”ぼくなつ5″の期待感を超えることはできなかったといえるでしょう.
その理由として一番大きな点は,冒頭に述べたターゲット層の違いです.

本作は幼児から50代までを対象としている為,”ぼくなつ”シリーズほどのコア感は薄いです.
ぼくなつの魅力を簡単に語ることは難しいですが,それぞれのナンバリングタイトルの公式キャッチコピーを借りると,
なくしたもの思い出しゲーム(ぼくなつ1)
毎日が、宝石だった。(ぼくなつ2)
カミサマ、あの夏に、返してくれないか。(ぼくなつ3)
ちょっとせのびで、見えた夏(ぼくなつ4)

というように,どこか物憂げな,ノスタルジーな,自分にもあったかもしれない,平凡な日々の中のちょっとした煌めき,そんなイメージが色濃く出ている作品です.

また一方で,ぼくなつの企画当時,綾部さんはゲームジャンルが”夏休みシミュレーター”だったということや,リゾートシミュレーターを作りたかったことなどをインタビューで明かしています.

これらのことから,ある意味で現実的な世界と主人公にプレイヤーが感情移入することで成立していたという,絶妙かつ繊細な作品であると言えます.
またぼくなつシリーズの累計売上約180万本というのは,決して少なくはありませんが,超有名大型タイトルと比較すると多くはないことが分かります.

従って,刺さる人にはぶっ刺さる”ぼくなつ”に対し,広くターゲットを構えた”オラ夏”では,ゲームコンセプトが異なるのはごく自然なことです.
実際にゲーム内容を比較してみましょう.

例えば虫取り一つとっても,大きく異なります.
“オラ夏”で収集できる虫の総数は48種類.
一方”ぼくなつ”はタイトルによって変動しますが,58~200種類となっていたり,採った虫同士を戦わせる虫相撲があります.
その他にも,魚釣りや王冠集め,小説,パズルやなぞなぞ等のちょっとしたミニゲーム等,随所に仕掛けが施され,真新しいものではありませんが,登場人物等との交流も含めたゆったりとした夏休みを自分のペースで進められる点が非常に魅力的です.

またストーリー面において,”オラ夏”では基本的にメインストーリーと言える大きな軸となる物語が存在し,それを順を追って進めていくという性質となっており,これはアドベンチャーゲームにおける直線型と言えるでしょう.

一方”ぼくなつ”においては,タイトルによって若干異なりはしますが,主たるストーリーはあるようでない,ないようである,プレイヤーが決められたことをやるという側面は薄く,シミュレーター要素が比較的強いものと言えるでしょう.

ただ,固定カメラからのアングルやキャラクターと作画の重ね方,時間経過や収集システム等,主たるゲームシステムは”ぼくなつ”をほぼ踏襲していると言っていいと思います.
その他規模は小さいものの,野菜の栽培やDJゲーム,恐竜バトル等小さなミニゲームがいくつか存在し,恐竜カードの収集等もあります.
これらは”ぼくなつ”の遺伝子を受け継いでいると言えるでしょう.

以上のことから,”ぼくなつ”と”オラ夏”,表面だけみれば,基本的なゲームシステムだけ見れば,
類似のゲームに見えるかもしれませんが,そもそもコンセプトやターゲットユーザーが大きく異なり,細かなゲームシステム1つ1つを見れば,毛色の異なるゲームであると言えるでしょう.

従って,綾部さんファンがプレイするには申し分ない作品ではありますが,”ぼくなつ”ファンの人が「綾部さんがメインで関わって製作しているから」という理由で手を出してしまうと,ターゲット層の前提が異なることに起因するギャップの大きさに驚いてしまうかもしれませんし,「こんなの”ぼくなつ”じゃない」となるかもしれません.

一方で,最新ハードで”ぼくなつ”っぽさのあるゲームをもう一度プレイしたいという”ライトな”ぼくなつファンの方にとっては期待通り楽しめる作品になると思います.

ということで,少し辛口気味になりましたが,本作の良い点は多数ありますので、また別の切り口から話をしていきたいと思います.

 

“クレしん”ファンから見たオラ夏

一クレヨンしんちゃんファンから見れば,非常にクオリティの高い作品だと言えるでしょう.
キャラゲーの域を完全に超えています.
本作を「どうぜキャラゲーでしょ」と認識してしまいプレイすることを避けた人は非常に勿体ない,そう強く言い切れる作品です.

本作のストーリー性はアニメと劇場版の中間のような,”長編の特別編”のような立ち位置になると思います.
架空の地域を舞台に描かれる,完全オリジナルのちょっとSFストーリー.
家族や小さな町の人たちとの絆,大人の少しナーバスな感情をテーマにした物語です.

話の内容も非常に分かりやすく,小さな子供でも非常に理解しやすく描かれており,劇場版のクレヨンしんちゃんを楽しめる子供であれば,問題なく理解できるストーリーになっています.

例えばタイムマシン的要素が出て来ますが,それを核とした複雑な時系列の物語展開ではなく,あくまで一つのスパイスとして添えられていたりと,非常にシンプルな物語になっています.
一方,大人にとって物足りないかと言うとそうではなく,身近で誰しもが通るような内容がテーマになっており,共感性は非常に高いです.
実際私は最後の博士としんちゃんの掛け合いの場面で泣きました.

ただ,劇場版と対比すると物語の展開や浮き沈みが若干抑えめに描かれています.
このあたりは後ほど詳しく説明します.

またストーリー面以外でも嬉しい要素は非常に多いです.
まずゲーム内でしんちゃんを自由自在に動かせるというのはかなり楽しいです.
虫や魚を取るたびにしんちゃんが喜んだり,町の人たちとの会話の中でリアクションをしてくれたり,
町を移動する際のダッシュ移動でケツだけ星人をしたり,お風呂に入ってヒロシと一緒に「あぁ~」と言ったり.
またしんちゃんや登場人物の作画も非常に手が込んでおり,更にそれらが乗る背景美術も非常に綺麗です.
下手すると劇場よりもきれいな背景でしんちゃんたちが動いているというのもかなり嬉しいです.
実際,本作の背景美術は劇場版の背景を手掛けたこともある製作会社が担当していますのでクオリティが高いのは必然ではあるのですが.

とういうように,劇場版さながらのクオリティで描かれる本作は,クレしんファンにとっては非常に魅力的で,これほどのクオリティを出したキャラゲーは過去に例を見ないと言ってもいいのではないでしょうか.

ただ一方で,劇場版さながらのストーリーを期待すると少し肩透かしを食らう場合がありますので,注意点として補足しておきます.

「劇場版クレヨンしんちゃんの中で名作は何か?」と言われると皆さんはどの作品を思い浮かべますか?
第1作の『アクション仮面VSハイグレ魔王』に始まる劇場版,興行収入は作品によって大きく変動しており,2021年夏現在では,『オラの引越し物語 サボテン大襲撃(2015年)』が2位の『アクション仮面VSハイグレ魔王(1993年)』を抑え1位となっています
その他にも上位陣には,
新婚旅行ハリケーン 失われたひろし(2019)
爆盛!カンフーボーイズ 拉麺大乱(2018)
ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん(2014)
などが並びます.

私は特に新婚旅行ハリケーンや大人帝国等が好きですが,やはり劇場版としての鉄板テーマの一つに野原家の絆が挙げられるかと思います.

いつものアニメとは異なる異郷の地で,異形の者たちと繰り広げる野原一家の奮闘劇,絆が楽しみ,という方も少なくはないと思います.

これらの魅力は何と言っても,普段日常として描かれている人々が非日常に晒されることで,何気ない日常の大切さ,ありがたさを改めて感じるという点だと思います.

一方本作におけるストーリーの中心はしんちゃんとアッソーの町の人たちとの関係やしんちゃんと博士の関係がメインとして描かれます.
従って,野原一家の絆の物語はほぼ描かれていません.
これはつまり,どいうことかと言うと,劇場版オリジナルキャラクターとしんちゃんの関係性を描くという方向性を取っており,既存キャラクターについて多くは触れないというパターンです.

この点について発売前のインタビューで綾部さんはこのように述べています.

「もともと『クレヨンしんちゃん』の世界がきちんと確立されているので,正直なところ既存のキャラクターはセリフをあまり自由に書けないというのはありました.
なので,特別な役割が必要になる部分はこのゲームのオリジナルキャラクターに担当させています.
(中略)
キャラクターの会話についても制作協力していただき,それこそ録音台本を1シーンごとチェックしつつ進めていきました.
細かくやったおかげで,通常のTVアニメの1話が1000m競争だとするならば,このゲームはハーフマラソンくらいの労力になりましたが,今まで『クレヨンしんちゃん』の世界を作ってきた方たちと共に作り上げたといえる作品になりました.
(中略)
原作漫画の出版社である双葉社さんが打ち合わせに参加したときも印象深かったです.
やはり出版社なので漫画家と担当編集の関係性があって,
(中略)助言していただけてありがたかったです.」

ゲームを作るのとアニメや映画を作るのとでは,1つのストーリーを作るにしても全く性質が異なります.
ゲームにおけるプレイヤーの自由度やリプレイ性等を考慮すると膨大な数のセリフ,それもプレイの仕方によっては登場しない可能性があるものも含めてデザインする必要があります.
それを既存のキャラクターにやらせようとすると,やはり原作との綻びが生じ,原作とのギャップを原作ファンに与えてしまうという最も危険な状態に陥ってしまいます.

それらを考慮した結果,本作オリジナルキャラクターがストーリーのメインとなっているわけです.

従って,劇場版で主役級に活躍するヒロシや野原一家,かすかべ防衛隊の活躍を見たいという方は,過度に期待するのは危険ですので注意して頂く方がよいと思います.

 

コアゲーマーから見たオラ夏

では最後に,コアなゲーマーから見たオラ夏について話していきましょう.

最新,綺麗なグラフィックのゲーム,インディーゲームなど様々な観点から見た場合,本作については真新しいゲーム体験要素はほぼないと言ってもいいと思います.

本作はアドベンチャーゲームに分類されると思いますが,同ジャンルの作品と見比べると,また昨今のインディー界隈の勢い等を比べると,ゲーム性としては劣りがちです.

主たるゲームシステムは”ぼくなつ”とほぼ変わりませんので,2009年の”ぼくなつ4″,場合によっては2000年の”ぼくなつ1″とほぼ同一と言ってもいいでしょう.

まぁただこの点については,冒頭にお話した通り,多くの人をターゲットにした作品である為,斬新なゲームシステムや複雑なやり込み要素などはそもそも検討範囲には入っていないと思われますので,当然と言えば当然ですね.

一方,ゲームの魅力を判定する場合,ゲームシステム以外にも,グラフィックの綺麗さ,ストーリーの内容,ゲーム音楽,寄り道要素等,様々な観点で考える必要があります.
それらの観点から考えると,ストーリーは先述の通り,グラフィックや音楽は非常に素晴らしい,ただやり込み要素などは薄いというのが概略になります.

グラフィック面,そしてゲーム音楽の面については以前詳細に動画としてまとめているので,是非そちらも併せてご覧頂きたいのですが,この場では完結にお伝えしておきます.

まずグラフィック面は,先程少し触れた背景美術の美しさとキャラクターの2D風作画,そしてそれが3Dに動いた時の調和性と滑らかさは非常に素晴らしいです.
これはしんちゃんを常に操作していく中での気持ちよさに繋がる非常に重要な要素です.

ゲーム音楽についても,幅広い層を対象にしているゲームとして,そしてしんちゃんのキャラゲーとしては異様な程クオリティが高く,自然の音,生活音,そしてポップなBGMが違和感なく調和した非常に上品なサウンドとなっています.

正直,小学生くらいの子供がプレイする作品とした場合,上品過ぎてこの先プレイするゲーム音楽のハードルがかなり上がるのではないかと少し心配になるくらいです.

ちなみにプレイ時間については,私の場合はメインストーリークリアまでで約14時間程度,ある程度まったりと虫取りや魚釣りもしていますが,コンプリート具合は7割といったところでした.
プレイ時間が長ければよい,短ければ悪いという評価は私はしないのですが,密度としては短時間に凝縮されていたという印象です.
勿論,収集をすっ飛ばしてしまえば,8~10時間程度でクリアできるかもしれません.
そもそもそういうゲームではないのでオススメはしませんし,それだと楽しくないと思います.

一方で,細かな箇所に気になる点が散らばっていました.
例えば,しんちゃんのスタミナゲージが実際ほぼ機能していなかったり,カメラワークが引き過ぎてオブジェクトがほぼ見えないマップが一部あったり,画面切り替えの境界線が分かり辛かったりと,細かな粗が目立ちました.

開発陣に対するインタビューによれば,本作は開発期間が2年程度,且つコロナ禍のリモート開発体制をとっていたと述べられています.
これらの要素が細かな粗が目立つ結果に繋がったとも推測できます.

まとめ

ということで,以上3つの軸で評価を行いました.
私の場合は,「ぼくなつ風しんちゃんのゲーム」として期待していたので,過度な期待をしていたわけでもなく,またいくつかのインタビューにも事前に目を通していたので,プレイしてみて落胆をするということは一切ありませんでした.

ただ,中にはぼくなつ続編と信じて購入した方もSNS等を見ると一定数いらっしゃったようで,そういった方の中には,恐らく「これじゃない」と思う方もいるかと思います.

まぁ発売前のゲームについてどれだけ入念に調べるかというと、人それぞれではありますし、どうしても、ぼくなつとの関連性をアレコレ妄想せざるを得ない立ち位置の作品だとも言えますので、少し勘違いして購入するケースをゼロにするのはやはり難しいですね.

良くも悪くも,特にぼくなつファンからは、期待が過度に高かったとも言えますので,それに該当する方においては,ぼくなつ風のゲームであることを念頭に置かれる方がよいと思います.

ただ間違いなく言えるのは,しんちゃんのゲームとしてはかなり傑作の部類になると思いますし,親子で初めてゲームをする,しんちゃんだからゲームやってみようかな,という比較的ライトな方にとっては,かなり好感を得られるゲームだと思います.

購入するか迷っている方は,この記事を参考に,納得のいく,後悔のない判断をされることを願っています.

ということで今回は以上となります.
このサイトでは,1人用ゲームに特化して,発売前情報のまとめやプレイ感,レビューをまとめていますので,よろしければ定期的にチェック頂ければ嬉しいです.

それでは読んで頂きありがとうございました.

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